女の子に言われた忘れられない一言。
ふと昨日思い出したことがある。
高校の頃のこと。
自転車を漕ぎながらの帰り道、隣のクラスの女の子と偶然遭遇した。
その女の子とは話したことがあまりなく、面識がある程度だった。
遭遇してしまったからと言って逃げる訳にもいかず、
流れで家まで送ることになった。
その後、帰り道が同じになるたび、家まで送ることになった。
女の子の家は僕の自宅からも、学校からもとても遠かった。
それは別に問題ではなかったのだが、一番の悩みの種は
その距離を埋めるための会話の尺がないということだった。
二人の共通の話題は、「学校で嫌われている先生」のことだった。僕もその子も、その先生が苦手だった。僕もその子もと言うか、クラス全員が嫌っていた。
何気ない会話が終了してしまうのは、決まって彼女の家まで残り半分くらいのところにある、長めに待たされる横断歩道である。
自転車を漕いでいると、適当な言葉が出るのに、長めに待たされる横断歩道の前では
脳にブレーキがかかり、言葉が全く出なくなってしまう。
そこで毎回していたのが、「学校で嫌われている先生」の話題である。
最初はその子も、「わかる。〇〇先生のそこが私も嫌い!!」
等の相槌を打ってくれていた。
人の嫌なところを見つけるのが大の得意である僕は、彼女のリアクションも良いし、
話も続くし、内心ほっとしていた。
それから一緒に帰ることが多くなり、僕が憂鬱になってきた頃、
またいつも通り、横断歩道辺りで何気ない会話に限界がきたので、
先生の悪口を言うことにした。
もうこの頃には、先生の嫌いなところが、これ以上ないというところまで僕は悪口を言っていた。先生のあらゆる面を掘りすぎて、良いところを見つけてしまいそうなくらいに。
彼女を家まで送り、自宅まで帰る道で、もうこの先生をこれ以上嫌いになれないかもしれない。そうなったら、もう彼女との会話は続かないなと不安になっていた。
僕は無理矢理、彼女との会話を継続するためだけに
もうこれ以上掘っても出てこないはずの、悪口を言い続けた。
「〇〇先生のご飯食べてる姿なんかムカつかない?」
「立ち姿がもうないよね」
「数学顔なのに国語教えるなよって感じだよね」
誰がどう見ても限界だし、僕も限界だとわかっていた。
先生の悪口を言うたびに僕は自分に
「別によくね?」と相槌を打っていた。
彼女の相槌はもっと辛辣だった。
「私、、、人の悪口言う人苦手なの。」
と言った。
僕は「え??」と思った。
(いや、これはその、会話を続かせるために、俺なりに、俺も本当はその先生のことそんな嫌いなわけじゃ、)等の言い訳が一気に頭を駆け巡ったけど
それを説明するには、彼女の家がもっと遠くにある必要があったので
僕は
「ごめん」
とだけ言った。
それから彼女の家までの道のりの記憶はない。
「え?」で頭が一杯になってしまったからだ。
それ以降僕は、帰る時間をずらして
二度と帰り道が同じにならないようにした。
「私、、、人の悪口言う人苦手なの。」
って言われた瞬間の、景色とか、匂いとか、その時の感情が鮮明に
記憶に残っている。
それほど、自分にとって衝撃的なことだったのかもしれない。
たまに思い出してはブルーになる話でした。